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株式会社IMS師道共育執行取締役・株式会社SAT代表取締役

大木 太一

できなかったこととやりきったこと

大木 太一

「なんだこの数字は!」
はっきりいって私は愕然としていました。
それまでさんざん警備の現場とバックオフィスで実績を積んできただけに、どこか安心しきっていたのは事実。IMSグループに参加し、配属された株式会社SCSの益田社長に与えられた目標を甘く見すぎていたのです。直前まで在籍していた会社で、私が直接担当していた仕事分の売上は年間3億円~4億円程度でした。もちろん、同じ警備業とはいっても分野も業態も違うのですから、その数字がそのまま取れるとはさすがに思ってはいません。だいたい、交通誘導中心の2号警備は得意分野ではないのです。ただし、それは益田社長の株式会社SCSも同じ。いずれにせよ、最初の営業目標に設定された月間300万円の売上を、それほどのものじゃないな、と考えてしまったのは事実でした。ところが1カ月後にまとめた、このグループに来て最初の自分の成績は、なんとわずか7万円だったのです。さすがに、これは大変なことになった、とそこからは本気で取り組んだつもりでした。けれどそれでも結果は出ません。
翌月の売上は50万円、さらに翌月になって100万円、入社から4カ月でようやく270万円……当初与えられた自立準備の最初のハードルである、月間売上300万円以上を達成するまでに、結局私は5カ月かかってしまったのです。
私がIMSグループの門を叩いたのには、大きく二つ理由がありました。一つは「人財」という言葉。警備は生身の人間が担当する部分の非常に多い仕事です。しかし、一方で教育や待遇、思いやりなど、隊員さんを中心とした人に対するさまざまな扱いが軽視されがちのように感じていました。ところがIMSグループはその「人」を「財=たから」に位置づけている。そこに興味を持ちましたし、惹かれたのです。そしてもう一つは「独立希望者募集」というもの。警備業界のなかでいろいろな職種、いくつかの会社を経験してきた私は、そろそろ自分自身が全責任を持って差配できるような自分の会社で警備を手がけてみたいと考えるようになっていたのでした。だからこそ、売上300万円をクリアし独立準備に向けた事業所を任せてもらうのが当面の目標。そして入社から5カ月、やっとそのスタートラインに着くことになった私がいました。
頭の片隅で、変に醒めた自分がいっています。
「ムリだろう普通。頑張ってもその半分で大成功」
もう一つの自分の声も聞こえてきます。
「やってみなけりゃ分からない。最初からできないって決めるんじゃ、なに一つやれることなんかなくなる」
また別の自分。
「そんな行き当たりばったりのせいで、最初の目標達成まで5カ月かかってしまったのを思い出せ!」
事務所を任された私に示された次の課題、それは翌月からの3カ月間で隊員を30名揃えるというものでした。もちろん、受ける・受けないの選択は私に任されています。
頭のなかの二つの声のいい合いに気をとられていたのは、ほんの一瞬だったかもしれません。次の瞬間、私ははっきり答えていました。
「面白いですね、3カ月で30人! ぜひやらせてください」
警備業に絶対欠かせないのが、現場を担当する隊員さんたちです。
どんなに営業して仕事依頼をとってきても、その現場を預かる警備員がいなければ仕事にはなりません。だからこそ、優秀で信頼できる隊員さんたちの確保は、私たちの生命線ともいうべきものです。ただし、隊員を揃えるのは簡単ではありません。力のある経験者は方々から引く手あまた。いきおい、新人を探すことが多くなりますが、必ずしも恵まれた仕事とはいえない警備に就いてくれる人はそれほど多くないのです。それまでの私の経験則では、一月かけて5人も揃えられれば大成功といえました。しかし、理性が止めるのにもかかわらず、私は明るく「やってみます」と答えていたのです。ところが、それから3カ月、9月末の事務所在籍隊員は32名。そのなかには私のことを気にかけてくれる益田社長の紹介による2~3名がいたとはいえ、ほぼ自力で目標を達成していました。
それから3年経ちますが、基本的に私が感じていることは一切変わりません。どんなことであろうと、結局は本人次第。ハラを決めれば結果は出ます。ほとんどのことはそれが真理です。どの程度の成果になるかは、本気度の違い次第、そこにかかっています。3カ月で30人の隊員確保以来、私は何度もそんな経験を重ねてきました。もちろん、成果を確実に高めるための方法はあります。


熱意と行動が求められる会社

大木 太一

もし成功を求めているなら、まずあなたがすべきことは、目指すゴールをイメージすること以外にはありません。そしてそのイメージは、明確化し言葉にすることで初めて「目標」に変わります。そうなると、周囲に伝えることができますし、自分でも具体的にそのイメージが持てて、やることも分かるはず。あとはやる気と熱意を持って臨めば、きっと目標は達成できるのです。一言でいってしまえば「有言実行」。同じことをIMSグループでは、もっと単純明快、誰にでも分かるようにまとめています。
1.思考する
2.宣言する
3.実行に移す
このプロセスを踏みさえすれば、IMSグループではほとんどの方が成果を出せるはず。
私が社長として業績を残せたのは、ひとえにこのプロセスに準じて熱意を持って取り組んできたからです。まず「思考する」こと。スピード感がとても大切です。日々の業務を行いながら、常に先の目標を考え続けます。考えることと動くことを同時にできるように自分を変えなければいけません。なかには、動き始めることに迷いや不安を持つ方もいるでしょう。とくに経営者という立場になれば行動には責任が伴いますので、選択を間違えば大変なことになりかねない。それは確かです。だからこそ、きちんと考えるのです。そうして思考を重ね、チャンスだと思ったら迷わず宣言。宣言することで目標を共有し、実行のための土台が作られるのです。考えることは大切ですが、その段階で迷っているだけでは、チャンスは逃げていってしまいます。私はそちらの方がもったいないと考える―幸福の女神には後ろ髪はない、といいます。少なくとも、現在の株式会社SATくらいの規模なら、なにか間違った行動をしても十分やり直し可能。たとえば「昨日いっていた方法では成果が出そうにない。じゃあ、今日は方針を変えてもっと成果が出そうな次の方法を試そう」でなんの問題もありません。もちろん、いつもその調子では困りますが、そのときどきで考え、方針を変えていくことも大切なのです。
もちろん、忘れてはいけないことはあります。目標を決めたときの思いと実際に行動する理由をぶれさせないことです。その点さえしっかり押さえておけば、目標と行動の間にブレが出ることはありません。また、社内で目標が共有できていれば、一見、朝令暮改ふうに見える上からの指示にも、迷いなく全社一丸となってあたることができるはずです。大企業の社長であれば、そうはいきません。一つの決定がどれだけの人を動かすか分かりませんから。つまり、全社統一の気持ちを持つのは恐ろしく困難。しかし、グループ全体でみれば大きな規模になるかもしれませんが、IMSグループ各社の規模はそれほどでもありません。だからこそ、ある程度は自由が利くのです。このフットワークの軽さは強力な武器になります。だからこそ「考えながら動く」スピード感が大切なのです。
こうして思考し、宣言して、実行できると判断できれば次にすることは明らか。あとは行動のみです。自分自身にハッパをかけて追い込むという意味でも、そしてグループのなかで目標を共有するという意味でも、大切なプロセスといえます。そのおかげでグループというつながりのなかで、必要なサポートが得られるようにもなります。IMSグループは確かな経験を積んだベテランたちが集まってできています。さまざまなプロジェクトを動かしてきた実績もあります。そんな基盤を利用しない手はありません。もちろん、スタートは自分が悩みながら考え、一歩踏み出すこと。しかし、それに続くアドバイスやサポートが、目標達成のためには大きな力になります。


IMSグループの特別さ

こんなふうにIMSグループをベタ褒めしているようですが、私はグループの社長たちとは違って、IMSグループ設立時のことはなにも知りません。もちろん現在、歴史認識会で勉強中とはいえまだまだ足りません。
あるいは益田社長のようにIMSグループ以前から現在の主要メンバーと付き合いがあったわけでもありません。
そういう意味では、まったく外部から参加して初めて独立した人間です。一方、いろいろな警備業界で仕事を覚えてきましたから、世のなか一般の警備会社についてはよく分かっているつもりです。
そんな私から見ると、IMSグループはかなり特殊で特別な経営をしていると驚くことばかりが続きます。まず、このグループには「支配者」がいません。
各社の社長はいても、グループ全体としての役職でみれば、社長同士は平等です。間違いなく「新参者」の私自身、たとえば創業から関わってきた方々と同じ責任、発言権と義務を負っています。他の社長たちと同じです。
また、グループとして、豊富な経験とノウハウを共有することができることも大きい。仮に一人の社長が会社経営で何かの問題を抱えていたとしても、それをバックアップする基盤があるのです。
反対に、たとえばもし誰かが飛び抜けた成果を上げて天狗になるようなことがあっても、それを諫める仲間がいます。これは完全に独立した会社では絶対に得られない貴重な財産です。
普通、社長は会社のトップであり、よくも悪くも孤独な立場になるのが当たり前ですから。
また、社長というものはどうしても自分と会社を一体として考えるようになります。その結果、ついつい会社は自分のものと誤解しがちです。私自身、社長の独断や同族経営によって、社員が苦しい思いをする会社をいくつも見てきました。
しかし、本来会社は個人のものであってはいけないのです。だからこそ、絶対的なトップを置かず、グループを基盤にして取締役という主要メンバーが互いに注意し合え、サポートもできる仕組みのIMSグループの特殊性を素晴らしいものだと感じています。
たとえば、この業界ではどうしても「橋かけ」といわれる時期、毎年4~5月には仕事が減って売上が下がります。もし仮に、会社が本当の意味で個人のものであれば、そこで困るのは社長だけ、もしくは役員だけでいいはずです。
ところが警備業では仕事が減ると、誰よりも先に被害を被るのはその月の仕事にあぶれ収入がなくなるたくさんの隊員さんたちなのです。会社の経営によって生活を左右される人間が大勢いるのに、会社がトップだけのものであっていいはずはありません。
身勝手な社長のエゴで会社を動かしていいはずはないのです。こういったエゴによる会社運営の最たる例は「後継ぎ」に現れます。自分=会社だと考える社長は、身内の息子に引き継いだり、自分の引退後をどう処遇するかを基準に後継者を考えます。
ただ、少し考えるだけで、そこには会社にとってプラスかどうかの基準はまるで関係ないことが分かります。その影響を一番受けるのは、隊員さんたちです。
そんなことがまかり通っていいのでしょうか。そんな不正から脱却し、会社を正しい人財に引き継いでいくには、それに見合った人間を育てる制度がどうしても必要です。
IMSグループでは、「篠田塾」という名で篠田総代自ら指揮を執り、本気で後継者育成に取り組んでいます。この姿勢も、他の会社とはまったく違います。一方で、会社が社長のものではないということは、裏を返せば社員一人ひとりが会社に責任を持つべきだということでもあります。
先ほどいったように、橋かけの時期に仕事が減って困るのは役員や社員だけではなく、隊員さんも変わりません。そのことを、社員一人ひとりは決して忘れてはいけません。だからといって「隊員さんや会社のために失敗は許されない、無理をしてでも働いて成果を出せ」というわけではありません。
ただ、自分は最低限いわれたことをやっていればいい、会社の経営が悪化しても、一社員の自分には関係ないと思わないで欲しいのです。
自分も会社の経営に関わっていて、会社のために、自分にできることはないかと考えられるようになって欲しい。そんなふうに会社と関わっていればこそ、自分たちの努力で成果を出せたときには、一緒に喜びを分かち合えるのです。
IMSグループの他の主要メンバーと比べ、いろいろな面で劣っているのが私です。頭がいいわけでもなく、飛び抜けて仕事ができるとも思いません。多くの人の縁に助けられてこれまでやってきたのです。そのなかでわずかですが私自身が誇れるのは、とにかく全力で仕事に取り組んできた、という点だけです。
たとえば、篠田総代はそんな私の姿をしっかり見てこられました。あるとき、こんな声を掛けてくれたのをいまも覚えています。
「はっきりいってしまえば、君はバカだ。あれこれと10も20も話しても、分からないし覚えられないだろう。だから君には、大切なことを三つだけ伝えておく。『情熱』と『勢い』と『誠実』、この三つが君のいいところだ。だから、これから先、それだけは絶対に守るようにして欲しい」
この言葉は私のなかにスッキリと落ちました。
情熱を持って臨む、勢いよく行動する、誠実さを持って人に接する。確かに、これなら私でもできる。
しかしこれは、日々の業務に紛れて誰もが忘れがちになってしまうことだ、そう思ったのです。私にできることは限られています。
だからこそ、この三つだけは絶対に忘れないで仕事に取り組もうと思いました。そこで次のような三つを、しっかりと書き出しました。そして事務所のデスクの一番目立つところに張り出し、いつでも見返して自分に問いかけ直せるようにしているのです。
「いま情熱を持って仕事ができているだろうか?」
「勢いを失って、守りに回ってしまっていないか?」
「隊員さんやお客さまに対して誠実さを欠いていないか?」
これが私にとって原点ともいうべき指針。そして、これを読んでいるみなさんにも必ず価値のある言葉になっていくと信じています。
警備業はお客さまのために隊員たちを派遣する仕事です。一緒に会社で働く社員以外にも、いろいろな人と関わり続けることになります。隊員たちのなかには、さまざまな経験を経てこの仕事に就くことになった方が少なくありません。
個人的には、そんな人たちと出会えるのがこの仕事の醍醐味の一つだ思っています。これは他の仕事ではそうそう得られない面白さだからです。とくに独立を考えてIMSグループに入ってきた方には、そんな出会いを大切にして、少しでも価値あるものにして欲しいのです。
そのために、ぜひ自分のことを肯定できる人間であって欲しいと思っています。それはただの「自己愛」ではありません。ありのままに自分を受け入れるということなのです。自分を受け入れることができなければ、他人を受け入れることもできません。
逆に、自分や他人を受け入れてうまく付き合うことができれば、きっとこの仕事は価値のある、楽しいものになるはずです。最初にいった通り、とくに独立の条件をクリアして自分の事務所設立にまでたどり着いた実力があれば、仕事に関しては懸命に取り組みさえすれば必ずうまくいきます。そしてその気持ちを忘れなければ、きっと仕事を楽しむこともできます。
楽しいことと気の進まないことの二つがあるとすれば、どうせだったら楽しまなければ損です。IMSグループを選んだからには、ぜひ独立を達成、自分の望みを楽しく実現していって欲しいと思っています。


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