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自分の気持ちが変わるとき

高木 久美子

事務員だけが私の役割―そう考えてずっと仕事を続けてきたように思います。
そんな気持ちが変わってきたのは、いったいいつごろのことだったのか―いま考えても、はっきりあのタイミングだと思い出せる区切りのようなものはないですね。
この会社の主要メンバーたちの何人かと同じように、私もIMSグループに参加したのは設立当初からではありませんでした。
ただ、別の会社ではあっても、何人かの方々とは机を並べて仕事をしてきたりしていましたから、実際、警備業界に関わってきた時間といえば、他の役員さんたちと比べてもほとんど見劣りしないつもり。
でも、いざとなれば、自分から進んで現場に立って仕事を片付ける、という男性の方々とは違った立場で、ずっとこの仕事と向き合ってきたことは確かかもしれません。
結局、警備の仕事、とくに交通誘導などの第2号警備といったものは、はなから男性優先のものと考えられがちだし、実際もその通りなんです。じゃあ、でもそこに女性の力はまったく必要ないかといえば、それは違います。
警備の仕事は、確かに現場に出てくれる隊員さんたちあっての仕事です。隊員さんたち
をしっかり集めることができて、警備を必要とするお客さんをつかまえることができれば回っていく―目立つところはそこかもしれません。
ただし、だからといって、それはIMSというグループが目指しているものではないようです。そのことが、私にもはっきり分かるようになってきました。


きっかけになった一つの言葉

高木 久美子

「私が資格取るわ」
口をついて飛び出したたった一言で、そのあとの人生がここまで変わっていくとは、このタイミングではまるで想像もしていませんでした。
ただでさえ、勢いでいろいろなことをやってしまったり、言わなくてもいいことに口を挟んだりするのは、私のよくないところかもしれません。
そんな欠点を持ちながら、悪気がないところと自分の言動にはしっかりと責任を取りたいという気持ちがあるので、これまで許してもらってきたのかな、と自分では思っています。
ちなみに、そこで「取る!」と宣言した資格というのは、「警備員指導教育責任者」です。だれでも知っているように、警備業は許認可事業です。この資格がなければ、隊員さんたちを集めて2号警備を行うことは許されません。

 

それまでの私は、警備の業界にいるとはいっても自分は事務の専門家だと思い込んでいたのです。最初に話したように「事務が領分」と仕事のワクを決めていたところがありました。
もちろん、負けず嫌いですから、自分の「領分」では誰にも負けたくありません。それだけのことはするつもりでしたし、実際、してきたと思っています。でも、それ以外の「男の領分」に、踏み込んでいきたいという気持ちは少しもなかったのです。
それが変わったのが、「資格」の話が出た株式会社IMSの設立2年目のころ。とはいっても、そのころ私はまだ株式会社IMSに加わっていませんでした。当時、現在は株式会社CPUにいる山田常務と同じ会社でバックヤードを担当していたのです。
当然、山田常務は資格者です。ただその代わり、ポイントポイントではどうしても事務所を空けるわけにいかないというジレンマに陥っていました。考えてみれば、一事務員だと思い込んでいる私が、気を病むようなことじゃないかもしれませんよね。
それが、実際には、その問題を解決するにはどうすればいいかって、考えました。だって、有資格者が事務所に2名いれば、山田さんはもっと自由に動ける、営業や隊員募集、現場巡回や場合によってはベテラン隊員として現場の力にだってなれます! 
もちろん、その結果は、売上アップ→ 利益上昇→ 私たちへの還元……ただ、現実にはなかなかそううまくはいきませんけれどね。そんなこんなで、結局、指導教育責任者を取得したわけですけれど、やはり、私がわずかとはいえ変わることで、仕事がトータルな意味で回り出したことは確実です。
それを見ていて、自分自身ほんの少しだけれど大切なことに気づいたのかもしれません。


警備は男性優位の仕事!?

高木 久美子

じつは、私はこの業界でのキャリアはけっこう長いんです。IMSグループの社長たちのなかでも長い方になるかもしれません。
いまの主要メンバーたちが最初のころに在籍していた警備会社に、私もいましたからね。それこそ、完全な事務職でしたけれど……。
自分自身の性格や仕事での周りとの付き合い方は、当時から少しも変わっていません。空気を読みませんし、いいたいこといってみんなに驚かれたり―持って生まれた自分ですから、本質が別のものになるはずもない。
少し変わったのは、私自身の心と気持ちの持ち方なんです。でも、それは他のメンバーみたいに「社長になりたい」「独立したい!」ってことじゃありませんでした。
だから、いまの身分も「行き掛かり上、役員になっちゃいました」という感覚が正直なところですよね。
仕事の性格上、警備業界は男性優位の職場であることは変えようがありません。ただしそれは、女性ができない仕事だということとは、まるで別の話です。
以前から、現場の隊員に女性が応募してくることはあったし、現在も少なくありません。
だからといって、当たり前のように現場に女性がいるというわけにはいきませんけれど。そんな状況を見ていて、IMSグループでも女性を中心とした警備隊をつくれないだろうか、なんていう企画が出てきたのかもしれません。
そのミッションの責任者に指名された一人が私でした。

 

結果からいうと、その計画は達成することができず、手をあげざるを得なくなりました。
失敗してしまったのだから、やはりやらない方が良かったとか、ムダだったとか感じそうなものだけど、不思議なことに少しもそんな気持ちにはなりませんでした。
実際、交通誘導の場面では一般に女性的だと考えられることの多い、気遣いだとか細かい配慮が必要とされるはずだと思いましたし、それはいまでも変わりません。それにもう一つ付け加えるなら、現場が男性的であればこそ、それを管理する事務所には少し違った要素が必要とされると考えているのです。自分の経験からしても、もっと女性が力を発揮できる部分があるように思えてなりません。
そのためには、やはり女性が会社の幹部にいることも必要ではないでしょうか。
もちろん、現に世の警備会社には、女性の上級管理職や役員がいるところだっていくつもありますから。


女性の力が求められている

私は指導教育責任者資格を取って、実際に隊員応募者の研修にあたってきました。
同時に管制業務も受け持つなど、現場に近いところでキャリアを重ねてきたといえます。
その結果として、現在の役職に就くことになったのですが、本当のことをいえば、決して取締役になることを目指して仕事をしてきたわけではありませんでした。
皮肉な見方をすれば、長い間、警備という仕事に関わってきた結果、他に任せる適当な役割がないからかもしれないな、などと思ったりするところもあります。
国のいうことを額面通りに信じるわけじゃありませんが、これからの日本ではこれまで以上に女性の力が必要とされる、といわれています。
男性中心の仕事という警備業でもそれは変わりません。現場、営業、内勤教育など含めて、私たちが受け身ではなく自主的に動けるようになっていくという方針が大切なのです。
もう一つ感じたことは、やはりIMSグループが特別なところだということです。
うちのグループでは「人財主義」というものを大きく掲げており、その理念のまま、実直にその方針を実行しています。
徹底的に人を育てていく、その先にあるのが、たとえば独立―グループ内で会社を立ち上げそのトップになる、ある意味で一国一城の主です。女性隊員による警備会社というのもそんなチャレンジの一つだと思います。
ただ、私自身は自分で警備会社をやろうという気持ちはないんです。だから、いまもトップではなく取締役として事業に関わっているのだと考えています。
社員から役員に変わったのは、IMSグループに来てから3年半くらいのとき。株式会社アスタリスクの取締役になったときです。ここの創業からでいえば6年経ったところで、初めての女性役員誕生ですね。そのあと社長になっていないのは、自分が力を発揮できるのがサポート的な部分だと分かっているからです。男性優位の業界だからと諦めていたとか、社長になろうと頑張っていたのに力が足りなかったというのとは違います。
IMSグループというのは、女性だからという理由でトップを目指せないようなことはありません。

必要なのは責任感と覚悟だけ

この仕事では、一緒にやっていると女性として扱われない場面も多いものです。とはいっても私にとっては、へんに気を使わなくてすむ分は楽ですね。
いいたいことをそのまま口に出しても、後腐れはないし、気を回す必要もないのが仕事ではかえってよく回ってきました。
ちょっとうるさいくらい元気があった方が、仕事も覚えられるし、上の人間からもかわいがられますね。
男女にかかわらず、とくに若い人財は元気が大切。少しも萎縮しなくてもいいし、どんどん失敗していくなかで学んでいくことが大事です。
いってくれた方が上も叱りやすいし、叱られることで身につくことも多いのは間違いありません。
これまで見てきたなかでは、失敗が若い人にとっては一番の勉強になっています。
失敗して怒られて、自分でもそのことをちゃんと考えること―失敗には必ず理由があるはずですが、それを人や他のことのせいにせず、自分で引き受けるのがポイントになっていますね。
自分のキャリアを築いていこうと思ったら、若いうちの失敗は怖がってはいけません。
一番伸びるのは、目の前の仕事に地道に向かって解決していく人ですね。そのうえで警備の仕事で頑張ろうと思ったら、早い時点で絶対必要な資格にチャレンジして取得すること。
資格があれば、実際その仕事をやらせてもらえます。自分自身の経験からいうのですが、けっこう長い間、内勤の事務仕事をしてきて、だいたいの仕事の流れは理解していたつもりでした。
でも、やはり実際にその仕事が、自分のものになると違うんです。「聞くと見るとは大違い」っていいますけれど、それ以上に「見るとやるとは大違い」ですね。
一国一城の主になる、つまり警備業の会社を経営していくためには、すべての仕事、その流れを理解していなければなりません。ただしこれは、できなければダメだというのとは違います。
不得意なところはできる人に任せてしまう、くらいのつもりで構わないのです。でもそのためには、任せる部分がどんなものなのかぐらいは知っていることは必要ですからね。これからのIMSグループには、若くて野心のあるくらいの人たちがまだまだ必要になってきます。
男性中心のグループのなかでは、私のような役員がいることがいろいろな意味で緩和剤になっているのかもしれません。とくに若い人たちにとっては、同じ男性の上司とぶつかりそうになったり、実際ぶつかってしまったときなどには頼りになる存在じゃないかと、自分のことを考えています。ここまでやってきたIMSグループが、これまでの方針をさらに進めて最初に掲げた目標に近づいていくためには、責任感と覚悟を持った人財がどうしても必要です。
いろいろな意味でそのサポート役を果たす―私はそれが自分の役割に違いないと思っているんです。

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