世界のすべては体の中で起きている
利己的な遺伝子
利己的な遺伝子 40周年記念版 – 2018/2/15 |
リチャード・ドーキンス著の”利己的な遺伝子”(1976年『The Selfish Gene』)に、「生物は遺伝子の乗り物である」と書かれています。
当時は衝撃的な発言で騒がれたそうです。果たしてそうなのでしょうか?
利己的な遺伝子から、なぜ利他的行動が発生するのか
客観的に生物を観察すると、どう見ても利他的としか思えない行動をしています。
だから遺伝子が一概に利己的であるとは、考えづらい。
ここで一つの仮説を立ててみたいと思います。
[仮説]
「単細胞での遺伝子の働きと、多細胞での遺伝子の働きが異なるのではないだろうか?」
つまり、未だ遺伝子には98%を占める未知の領域があるといわれていますが、多細胞生物になると、この未知の領域が発動しているのではないのかという仮説。
利己的な遺伝子を持つ個々の細胞が集まり、利己を制御し協力し合って多細胞生物が存在しているのではないだろうか。
そうでなければ、多細胞生物は生存できません。「NHKスペシャル シリーズ人体」でも解説されていましたが、臓器同志がメッセージ物質を放出し、まるで会話をしながらそれぞれの機能を制御し合っています。免疫細胞という単細胞にまでメッセージ物質が伝達され、休むか戦うかを制御しています。
遺伝子の働きを阻害する要因
これらの利他的行動を犯す要因に、外的要因と内的要因があると考えられます。
外的要因としては、ウィルスなどです。
細胞膜を持たないウィルスなどの遺伝子は完全に利己的で、自らの宿主となる細胞を探し、鍵穴をだまして細胞内に侵入し、自らの遺伝子を増殖させていきます。
通常は体内の免疫細胞との戦いに敗れ消滅しますが、免疫力が低下しているとウィルスに勝てず体内全体が支配され、最後には結局、多細胞生物を生存不可能な状況へ陥れ、自らも消滅します。
しかしその間に、別の個体にも感染し虎視眈々と次の獲物を物色しているのです。ウィルスは、まるで自爆テロの伝染のようです。
一説には、古代のウィルスが生物の進化に優位に働いた事例があり、我々のゲノムのうちの8%が内在性レトロウイルスやLTRレトロトランスポゾンであるとわかっているそうです。
もう一つの内的要因としては、癌などです。
がん細胞は元々正常な細胞が、突如異常になる現象で、周りの正常細胞と一切協力せず、周りの細胞をだまし、自分だけが優位につくために生存しています。
癌の特徴はアポトーシスを忘れ、永久に生きることを最優先とする細胞です。アポトーシスとは管理・調節された細胞の自殺すなわちプログラムされた細胞死の事です。
通常の単細胞ではアポトーシスが起きませんが、多細胞生物の単細胞ではなぜかアポトーシスという機能が備わっています。
古い細胞や壊れた細胞が自ら消滅する仕組みは、多細胞生物に共通する最大の特徴なのではないでしょうか。
癌細胞はそのルールを無視し、健全な細胞にアポトーシス指令を下し、周りをだまし、自分だけに血管をつないで酸素や栄養を独り占めにします。
さらに自らは増殖を繰り返し、結局、多細胞生物を生存不可能な状況へ陥れ、最後は自らも消滅します。
ある意味、破壊分子といえます。癌細胞は、まるで世界の覇権をたくらむ組織のようです。
単細胞は利己的。多細胞は?
外的要因であれ内的要因であれ、いずれも利己的であるといえます。
免疫細胞もある意味、利己的かもしれません。敵を見つければ無条件で攻撃を加え、消滅させる訳ですから。
しかしこの時、「仲間だから攻撃しないで」とメッセージ物質を受け取ると、攻撃を中止し制御されます。
残念ながら癌細胞はこれを悪用し、同じメッセージ物質を出して免疫細胞をだますのです。やはり癌細胞は悪党のようです。
また免疫細胞は、メタボリックなどによる脂肪細胞からの異常で、「敵が来たぞ!」とのメッセージ物質を放出し、仲間である自らの正常細胞を誤って攻撃し破壊します。
これは過剰摂取によるメタボリックの自業自得です。
まとめ
①単細胞は利己的である。
②多細胞は利己的な細胞が集合して、各単細胞からのメッセージ物質の交換(情報交換)によって協調しあっている。
③利他的とは、利己的な情報交換による協調と制御によって成立している。
こう考えると、人間関係も国同士の関係も、すべては体の中で起きていることと同じで、利己的な情報交換による協調と制御によって利他的関係を築けるのではないでしょうか。